SHANTiROSE

INNOCENT SIN-90






 クライセンの捜索は縮小されながらも続けられていた。
 時間の許す限りそれに参加していたサンディルが城に戻ってきたとき、廊下でロアに呼び止められた。
 クライセンが見つかったのかどうかは彼に聞くより早く報告される。ロアが確かめたいことは一つだった。
「魔族の娘は家を出ましたか?」
 ティシラのことはサンディルも深く憂慮している。息子の消息も分からないサンディルに心休まるときはなかった。
「……涙も出ないほど放心していたよ。ただ、もういつまで待ってもクライセンは帰って来ないことを伝えると、ちゃんと返事をしていた」
「そうですか……」
「魔界に帰ると言ってくれたよ。もっと時間がかかるかと思ったが……彼女にとってはクライセンがすべてだ。それがない世界にいても意味がないと、理解が早かったのだと思う」
「それで、ちゃんと見送ったのでしょうか」
「いや……」
「え? なぜですか?」
 心ここに非ずといった口調のロアに、サンディルはため息が漏れた。
 ロアにとってティシラはただの邪魔者にすぎない。彼女がどれだけ辛いのかなど、まったく配慮しない態度にサンディルは苛立ちさえ感じた。
「ティシラは深く愛する婚約者を失ったのだ。二人の出会いは運命だと信じ、悠久の幸運のためなら家族の反対を押し切ってでも守りたいと行動を起こした結果、死に目も遭えずすべてを諦めるなど、どれだけの覚悟が必要なのか考えてやることはできないのか」
 ロアは強い口調で言われ、口を噤んだ。
 サンディルの言うとおりだ。ロアは彼女に対し嫌悪の感情がある。それでも相手の気持ちを考えなければいけない――人として。が、個人的には、端から無謀な恋愛だったという考えは変わらなかった。
 引き裂かれたのなら、それは「運命」ではなかっただけのこと。
 その言葉を胸の奥にしまい「失礼いたしました」ロアは目を伏せて詫びた。
 かっとなってしまったサンディルだったが、すぐに冷静を取り戻し、頭を横に振った。
「何にせよ、ティシラには安全な場所にいて欲しい。私が屋敷を出たあとも、警備兵が何度か様子を見に行っている。屋敷の中に人の気配はないそうだ」
「そうでしたか」
「きっと、静かに出ていったのだよ……私はとても寂しい。だが、これでいいと、信じている」
 涙を堪えるように俯くサンディルにこれ以上追い打ちはかけられない。ロアは頭を下げる。
「辛いお役目を担っていただき、感謝いたします。あなたのしたことは正しいと、私も信じております」
 二人はそれ以上話すことはなく、それぞれの場所に戻った。
 ロアは一人、横目で窓の外を見つめながら遠くに視線を投げた。
(……後ほど、私が直接確認するしかありませんね)
 ロアが信じられないのはサンディルではなく、ティシラだった。サンディルは甘い。なんとか時間を作って行動しなければいけない。ロアはティシラがいないことを自分の目で確かめなければ気が済まなかった。



*****




 ミランダは借りている客室で、魔法の術式をまとめたメモやノートの束を積み上げて整理していた。
 カームは開けっ放しになっていたドアから覗き込み、はっと目を見開いた。
「ダ、ダメですよ!」
 カームは突然大きな声を出して部屋に駆け込み、ミランダの手から紙の束を取り上げた。
「早まってはいけません! 僕、帰ります。ミランダさんの言葉で目が覚めました。だから一緒に魔法を行いましょう!」
「な、何? 急に」
「急ですみません。でももう迷いません。堅く決意しました。僕は僕の世界で精一杯生きていきます!」
「そ、そう……それはいいけど、何がダメなの?」
「え?」
「ダメとか早まるなとか言ってたけど、何の話?」
「え……だって、ミランダさん、この資料を捨てようとしてたんじゃ……」
「は? そんなことするわけないじゃない」
「そうなんですか? 思いつめた顔をしていたから、つい……」
 またカームの妄想が暴走していたようだ。ミランダは呆れつつ、こんなやり取りをそれほど悪いとは思わなかった。
「捨てるわけないでしょ。もしあなたが協力してくれなくても他の手段を考えるわよ。例え使い道がなかったとしてもこれほどの魔法の術式、そう簡単に手に入るものじゃないのよ」
 ミランダの落ち着いた様子に、カームはほっと胸を撫で下ろした。それと同時、彼女の言うとおり、今手の中にある術式は大天使の魔法であり、レオン直々に伝えられた秘術だ。ミランダはその価値を十分に理解している。状況を把握できていないのはカームだけで、そのことに気づいた彼は情けない表情になって紙の束をミランダに返した。
「すみません、僕、また調子に乗ってしまって……」
「いいの。もう、少し慣れたわ」ミランダは受け取りながら。「私の方こそごめんなさい。手を上げてしまって」
「いいえ、僕が……」
 カームは顔を上げたあと、口を閉じてこみ上げたものを飲み込むような仕草をする。
「いえ、あの……話の続きは……帰ってからに、しませんか?」
「え?」
「時間もありませんし、先に、魔法を試してみましょう」
 カームなりの、遠回しな約束の取り付けだった。
 帰ってからも、また会って話をしたい。そう伝えていたのだ。
 しかしミランダはそこまで読めなかった。
「先に魔法を試すのは賛成よ。でも、帰ってからわざわざ話すことなんかあるのかしら」
 カームは胸の痛みと歯がゆさで床を転がりたくなったがぐっと堪えた。
「あ、ありますよ……」
「まあいいわ」ミランダは紙を床に広げ始め。「じゃあ始めましょう。集中して」
 腑に落ちないカームだったが、邪な気持ちを捨てて気合いを入れてメガネの渕に手を掛けた。


 やっと前に進む、はずだった。
 カームは確かに肉眼では見えないはずの星が見えた。
 ミランダが呪文を唱えて魔法陣を空に描き、星を動かす。その星の動きをカームが目で追い、正しい位置をミランダに指示する、というのが二人の共同作業だった。
 二人はとりあえずその場で試しに魔法を行った。カーム曰く、彼の裸眼なら別に外でなくても見えるからだった。
 ミランダは初めてカームを頼もしいと思い、二人の気持ちはまとまっていた。
 しかし次の問題がすぐに発生した。
 たった一つの星を動かしただけで二人は息切れしてしまったのだった。
 頑張ればもういくつかはいけそうだったが、ミランダの計算では百個近くの星を動かさなければいけなかった。一つでこれほどの魔力を消耗するようでは、とても完成まで持たない。一つを動かせば他の星に影響を与える。その影響は連動し、どれほど大きな力が生まれるか分からない。下手すれば宇宙の法則が壊れてしまう可能性があった。ミランダはすぐに決断し、一度動かした星を戻す作業に入った。正しい位置に戻したところで二人は床に倒れ込んだ。
「……どうしよう」ミランダは再び絶望に打ちのめされた。「こんなの、やっぱり無理よ」
 さすがのカームも無責任に「何とかなる」と言えなかった。あまりにレベルが高い。形だけ真似したところで世界最高位の魔法使いや大天使になれるわけがないのだ。何度目かの壁にぶつかった二人はしばらく呆然としてその場から動けなかった。


 じっとしていても時間は流れる。
 暗い顔をした二人はぽつりぽつりと言葉を交わし始めた。
「ねえ、ベリルたちに協力を求めるってのは、ダメかしら」
「うーん……彼女たちの力を知っているわけではありませんが、正直、それでも足りない気がします」
「うん……私もそう思う」
「エミーさんなら、もしかして……」
「いないでしょ。いても手伝ってくれるわけないわよ」
「ですよね。ジギルは……」
「ジギルは魔法使いじゃないし」
「でも、魔薬を使えますよ」
「魔力を増幅する魔薬でも作ってもらうってこと? それを私たちが使うの?」
「……それしかないなら」
「バカ言わないで。私たちは元の世界に戻るのよ。私たちの世界では魔薬は禁忌で、人間をやめるのと同義。そんなことしたら帰る場所がなくなるわ」
「じゃあ……どうしたらいいんですか」
「分からないわよ……」
 重苦しい空気の漂う部屋にハーキマーが様子を見に姿を見せた。
「どうしたの?」
 二人は今にも泣きそうな顔を上げる。
「……魔力が、足りないんです」
 カームが言うと、ハーキマーはふうんと呟く。
「時間がかかりそうなら、休憩したほうがいいわ。あなたたち、顔が怖い」
「時間の問題じゃないの」ミランダは頭を抱え。「どうすればこの魔法を使えるほどの魔力を調達できるって言うの? どこかにあったとしても今の私の体じゃ耐えられなそうにないし」
「よく分からないけど、革命が始まるまで待ってみたら?」
「革命が? どうして? もうすぐ始まるの?」
「いつ始まるかは知らない。これを見て」
 ハーキマーはポケットから新聞の一部を取り出して二人に差し出した。
 それは、レオンの言葉が書かれた部分だった。
 二人は神妙な表情になり、何度も黙読を繰り返した。
「……この世界に、魔力が満ち溢れる?」ミランダは眉間に皺を寄せ。「どういう意味?」
「エミーの革命はリヴィオラを大地に還すこと。それが叶ったとき、魔力は人間のものではなくなる。リヴィオラの持つ無限の魔力は自然界に解放される」
 二人が首を傾げていると、ハーキマーは「って、ジギルが言ってた」と付け加えた。
「私も具体的には分からない。でも、魔力の核であるリヴィオラは誰のものでもなくなる。だったらあなたたちもその力を借りれるんじゃないかって、思った」
 カームとミランダは顔を見合わせた。ジギルに聞けば詳しく教えてくれるかもしれない。そう考えたとき、ハーキマーが更に続けた。
「それと、完成したって」
「完成? 何が?」
「ジギルが今作ってるもの」
 再度二人は顔を見合わせる。
 魔薬の解毒剤だ。イジューを元に戻すため、そしてこの世界の未来を明るくするかもしれない希望の薬だ。
「イジューが、最後にみんなと話しておきたいって言ってる。あなたたちも会ってあげて」
「もちろんですよ」カームが笑顔で立ち上がった。「でも最後じゃありません。いつかジギルが、後遺症のない薬を作ってくれますから」
「そうね」と言いながら部屋を出ていくハーキマーのあとを、カームとミランダは先ほどまでの暗い話題を忘れて着いていった。


 リビングにいたイジューは、二人の顔を見て駆け寄ってきた。
 ミランダに抱き着き、その手が震えている。ミランダは優しく頭を撫でた。
 大丈夫、と言おうとして、ミランダは言葉を飲んだ。リビングに先にいたベリルとメノウが苦笑いを浮かべている。おそらく今まで少女を慰めていたのだろう。それでも逃げ道が欲しいのだと思う。ミランダはイジューの気持ちを察し、小さな肩を抱いた。
「怖いよね……」
 イジューはぎゅっと拳を握る。
「また、何も聞こえなくなるなんて、寂しいに決まってるわよね」
「……うん」
「何かが変わるときって、いつも怖いわ。それがたとえ、楽しいことだったとしても、どうしても不安が付きまとうものよね。私もよ。きっと、ジギルも同じだと思う」
 イジューはびくりと肩を揺らした。ジギルも怖い。自分と同じように。そんなことを考えたことのなかったイジューは、改めて彼の顔、そして声を思い出した。誰にも相談もせず勝手に決めて、何も知らないまま自分を傷つけていた。ジギルには何の責任もないのに、元に戻そうとしてくれている。何も言わないけど、自分と同じくらいの不安を抱えているのだとしたら、怖がって泣いていてはジギルに負担をかけることになる。
 イジューは涙を飲み込み、ミランダから離れた。ゆっくりと一人一人の顔を見ていき、肩の力を抜いて呟いた。
「……行ってくる」
 ミランダはほっとすると同時、寂しさを感じた。
 だけど本人が決めたことだから、これ以上何も言えなかった。


 イジューが一人で部屋を出ようとすると、すぐにベリルが後を追った。
「どこに行くの?」
「扉の間に、来いって」
 扉の間はエミーがいなくなってからほとんど人が出入りすることがなくなっていた。
「扉の間にはエミーの魔力の跡が残ってるけど関係あるのかしらね。でも、魔薬って魔法じゃないわよね?」
「分からない。静かで、広いところがいいって、言ってた」
「ジギルも人並みに緊張してるのかしら?」
 ベリルが言うとメノウも笑った。
「じゃあ私も着いていくよ。そうだ、みんなで行こう」
「でも、一人で、来いって……」
「だってさあ、緊張したジギルの顔、見たいんだもん。なあ?」
 ベリルは大きく頷き、ハーキマーもしっかり着いてきていた。
「……始まりの場所」ハーキマーが呟くと、一同は注目する。「前に、扉の間のことを、ジギルがそう言った」
「へえ」とベリル。「ジギルって、あんな顔してロマンチストなのね」
「それで」とメノウ。「始まりの場所ってどういう意味だ?」
「知らない」
 二人が笑いあっていると、カームが割り込んできた。
「笑わないでください。男はみんなロマンチストなんですよ!」なぜか目を潤ませ。「始まりの場所! なんて泣ける名前でしょう。そこからエミーさんの革命が始まったんです。そして同じところを、ジギル自らがやりたいと思ったことを始める場所にしたんです。そこからジギルは世界を救う英雄への一歩を踏み出すんです。感動するじゃないですか!」
 力説するカームを一同はしばらく見つめていた。沈黙を破ったのは、メノウの一言だった。
「なんで?」
「え?」
「別に変身するわけじゃないし、場所はどこでもいいだろ」
「そ、そうだけど……だから、それがロマンなんですよ。ほら、例えば好きな人に告白するときとか、場所を選ぶでしょう? で、その場所とか、その時間は一生の思い出になったりするんです。そういうの、大事なんですよ」
「ジギルにそんな感情あるかなあ?」
 メノウが首を捻るとすかさずベリルが「ないない」と言って笑った。カームは顔を真っ赤にして黙ってしまう。その隣で、ミランダが他人の振りをするかのように目を逸らしていた。


 一同は和気藹々とした空気で扉の間に到着した。
 中に入るとジギルが一人、部屋の中心で胡坐をかいていた。床には、今は使われていない巨大な魔法陣の跡が残っている。
 ジギルは集団でやってきたイジューを睨みつけた。
「一人で来いって言っただろう」
「ご、ごめんね……」
「ジギル!」と素早くベリルが前に出て。「あんたも分かってるんでしょう? 私たちが勝手に着いてきたの! なのにイジューを怒るなんてひどいじゃない!」
「うるせえな。野次馬が出しゃばるな」
「はいはい。邪魔はしないわよ」
 ベリルは一歩下がり、イジューの背中を押した。
「ここで待ってるからね」
 優しく言うと、イジューは頷いてゆっくりとジギルの元に歩いていった。
 ベリルはドアを閉め切らず、中を覗いていた。
 イジューが小さな体を更に小さくして彼の前に座った頃、そっとドアを閉じた。


 静かな空間で、二人は向き合った。
 イジューはやはり恐ろしく、両手が震えていた。できることなら、ずっとみんなの雑談や笑い声を聞いていたかった。だがそのドアは閉ざされた。
 ジギルは手の中にあった小さな瓶をイジューに見せた。中には液体が入っている。
「実験はしていない。お前の血液を使って作ったから、試しようがないけどな」
 イジューはすぐには受け取らなかった。
「だがただの解毒剤なら俺が自分で成功させた。そのときの感覚は覚えている。根拠は示せないが、自信はある」
 イジューはやっと、震える手を差し出した。ジギルはその小さな手に瓶を乗せる。
「あとは好きにしろ。この薬を完成させ、お前に渡した時点で俺はエミーを裏切ったも同然だ。使おうが捨てようが、俺のこれからは変わらない」
 イジューははっと顔を上げた。
 ジギルは世界を変える力を持つエミーを裏切ったのだ。思っていた以上に、彼は重いものを背負って薬を作ってくれた。
 使わないわけがなかった。ジギルが危険を犯しても作ったということは、それだけイジューの体が重症だということ。魔薬のことをよく知る彼だからこそ、何の覚悟もない少女から、制御できない「毒」を取り除きたかったのだ。
「……ありがとう」
 イジューは声を振り絞った。だが実際は、まだ心が追い付いていなかった。
 目に涙が浮かぶ。それでも、イジューはほほ笑んだ。
「私、ずっと、ジギルの傍にいたい。ずっと。だから、長生きしたい。大人になって、もっと、いろんなことを、知りたい。もっと、たくさん、友達が、欲しい……だから、これ、飲むね」
 ジギルがほほ笑み返すことはなかった。
 イジューは意を決して瓶のふたに手をかけ、開けた。
 ジギルに見つめられ、ゆっくりと口に運ぶ。
 冷たい液体が唇を濡らし、舌の上を流れていく。
 僅かな刺激が喉を通り、体の中に広がっていった。
 不思議な瞬間だった。
 体の奥の、心臓の裏側の、もっと下。かちりと、何かの合図のような衝撃があった。
 イジューは目を見開く。
 全身が痙攣し、だが鎖で縛られたように動けなかった。その痛みは体の中を締め付け、内臓が潰れていくほど強くなっていく。
 ジギルはイジューの異変に気付いたが、手遅れだった。
 見ているだけで分かる。イジューの体の中を何かが浸蝕していく。
 イジューは座ったまま仰け反り、目と口を大きく開けた。悲鳴を上げることも、倒れることもできずにガタガタと震え、それの「芽吹き」に血肉を与えた。
 その何かは、イジューの大きく開けた口の中から姿を見せる。

 血に塗れた、真っ赤な薔薇の花だった。

 イジューは目鼻口、耳からも、下半身からも血を流し、背を伸ばしたまま息絶えていた。

 彼女の体の中に植え付けられていた「種」が、ジギルの作った薬に反応して発芽したのだった。
 種は少女の体内で血を吸って急速に成長し、肉を破り、命を奪って花を咲かせた。

 その一部始終を見ているしかできなかったジギルはしばらく呆然としていた。
 あまりに突然で、理解するのに時間がかかった。
 止まることなく流れ出るイジューの血溜まりが広がり、ジギルの足元まで来たとき、我に返った。

 悲しみ、怒り、絶望、後悔。
 ありとあらゆる負の感情がこみ上げるが、もう死んでしまった少女にしてやれることはなかった。
 これ以上ないと思うほどの残酷な現実に取り残されたジギルの脳裏には、真っ先にこの言葉が浮かんだ。

 ――これが、「印」だ。

 革命の始まりの合図。
 ジギルの裏切りが証明されたとき、エミーはこの世界を終わらせると決めていたのだった。

 ジギルの心は壊れた。
 ここから始めるつもりだった。本当にやりたかったことを。
 だがこの世界には絶望しかない。
 神はいる。
 ならば、ここは、地獄だ。醜悪な暗闇だ。
 体中を長く鋭い針で貫かれるような悲しい痛みに襲われ、ジギルは喉が破れそうなほどの激しい悲鳴を上げた。





   

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