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1.GAME




 賑わうヴァレルの町を、ブラッドは気分よく歩いていた。
 今日はロードではない酒場で、数人の友人と飲んでいたのだ。顔ぶれはデスナイトの同期の者だった。男同士で品のない話で盛り上がったが、メンバーの内の半分が、朝から仕事があるということで行儀よく解散した、その帰りだった。ブラッドは軽い足取りでヴァレルの大通りを横断しながら、このまま帰ろうか、ロードに顔を出していこうか考えていた。
 今日エスは仕事でいないのは分かっている。その代わり、というのは失礼だが、シェルのウェイトレス姿でも拝んでいこうかなどとも思う。生粋のお姫さまのあれは、眺めているだけで楽しくなる。指一本触ることはできないが、あんな無骨な野郎どもの巣窟で姫が笑顔を振りまいていられるのも、鬼のような番犬がついているからこそ実現できることなのだ。そう思うと、逆にランには感謝するべきなのかもしれない。護身術のひとつも持たない彼女にロードで働かせるのはどうかと思うが、きっとシェルがじっとはしていられないのだろう。
 ならばヴァレルではない平和な場所で、と言いたいところだが、シェルの世間知らずは一般人の想像を超えている。一人で社会に出て働くなんて無理に決まっているのだ。それを見越して、ランは自分の目の届くところに置いているのだと思う。ロードならランを知らない者はいない。つまり、一見軽く押しただけで倒れてしまいそうなシェルは、ヴァレルで最強の剣と鎧を装備しているということになるのだ。
 もどかしいと思う者はたくさんいるのだろうが、ブラッドは友として、素直に安心することができた。今更ランに文句や愚痴を言うこともない。どれだけ考えても不釣合いだとしか思えないが、ランはしっかりしている。それに、真面目で誠実なはず。どちらかと言うとシェルの方が彼に惚れ込んでいるようだし、なんだかんだで上手くいくだろうと、ブラッドは温かく見守ることにしていた。


 まだ行き先も決まらないまま、ブラッドは周囲を眺めながら歩いた。ごった返しているほどでもないが、ガラの悪い、いかにも冒険屋らしい者たちがたむろっている。もう見慣れた風景だったが、ブラッドには心地いい雰囲気だった。
 そこに、背後から声をかける者がいた。
「おい、小僧」
 名指しされたわけではないが、なんとなく自分のことかと感じ、ブラッドは肩越しに振り向く。目が合うと、声の主は片手を上げてブラッドに近寄ってくる。
「お前、確かロードの……」
 言葉を濁すその相手は狐の獣人だった。彼はブラッドより背も高く、見たところ年も上のようだ。狐は少し考えて。
「……ええと、なんだっけ」
 知り合いではないようだ。ブラッドも向き合って彼の顔を見つめた。感じからして、彼が冒険屋であることは察することはできる。ラフな格好と目立つ武器を装備していないところから、ブラッドと同じく飲みにきているといったところだろうか。きっとランの知り合いだろう。今の段階ではそのくらいのことしか分からない。警戒する必要もなさそうだし、ブラッドはとりあえず返事をする。
「ブラッド……」
「ああ」狐は大きな口を開けて。「そうだ、ブラッドだ。ロードで一回見掛けたんだ」
 一回見掛けただけでどうして名前を知っているんだろう。ランから聞いたんだろうか。ブラッドは何から質問すればいいのか分からなかった。そんな彼に構わず、狐は軽い口調で続けた。
「あ、いきなり悪いな」そのことにやっと気がつき。「俺、ロッカ。お前のことはデスナイトで知ったんだ」
「デスナイト?」ブラッドは少し慌てて。「じゃあ、先輩?」
「別にかしこまらなくていいよ」
 気を解そうとするロッカに対し、ブラッドは目を見開いた。
「ロッカって、もしかしてロッカク……さん?」
 化け狐のロッカク。デスナイトでその名前は有名だった。存在は目立つ方ではない。いつも軽い笑顔で、細かい気配りや面倒な作業も嫌がらず、上司や後輩からも好かれる八方美人な性格だった。だが、そんな調子のいい彼も、仕事のときは別人になる。ロッカは、正確には冒険屋ではなかった。暗殺部隊の一員であり、「冒険」は時々片手間で首を突っ込む程度である。普段の彼の人物像から、ロッカの本気で怒った顔は誰も見たことはなかったし、人を殺す姿など想像できるものではなかった。だが彼を知る者は、腹の中で何を考えているか分からないと、それなりに距離を置いて付き合っている。つまりロッカは「化け狐」の異名通り、掴みどころのない変人だったのだ。
 ブラッドも彼の名前は聞いたことがある。実際会ったのは今が初めてだった。指揮官となってもおかしくない歴と実績を持っているのだが、言葉では謙遜しながら、好んで中堅の立場に居着いているという、微妙な話なら耳にしたことがあった。どう微妙かはともかく、少なくともロッカが自分の大先輩であることには変わりはなかった。ブラッドは無意識にかかとを揃えてしまっていた。
「だから、そういうのやめてくれよ」ロッカは肩を竦める。「お前の噂はいろいろ聞いてるよ」
「えっ、噂って?」
 ブラッドはつい笑顔になってしまった。いい噂だと思ったのだ。
「面白い奴だって」
 ロッカも笑顔で素早く続ける。なんだ、とブラッドは思いながら笑い続けた。ロッカはきっと彼の心理を分かっているのだろうが、気づいてないふりをしてその場のテンションを落とさなかった。
「なあ、暇だったら少し飲まないか?」
 突然のロッカの申し出に、ブラッドは驚きを隠せなかった。
「え、ああ……」
「よし」ロッカは勝手に話を進める。「ロードはだめだ。近くに俺の行きつけがあるんだ。そこでいいか」
 いいか、と聞かれても、断れる空気ではなかった。ロッカは返事も待たずにブラッドの肩に手を回した。
「奢ってやるから、遠慮するな」
「い、いいんですか」
「俺が誘ってるんだし、お前は可愛い後輩だ。だが俺は尊敬されるような先輩じゃない。敬語はやめろ。俺のこともロッカって呼べ。いいか」
「は、はい」
「はいじゃない」
「は……ああ、うん」
 ブラッドは、嫌とも思わなかったが、ロッカの強引さに引き気味だった。しかし先輩の誘いを断るわけにもいかなかったし、断る理由もなかった。言われるままに、帰路とは逆の方向に連れて行かれた。


 ブラッドとロッカは小さなショットバーで、通路沿いの狭いテーブルで向き合っていた。シンプルだがおしゃれな店だった。店内は暗く、ジャズが流れている。ロードとは全然違う雰囲気だった。
 ロッカは慣れた様子で「いつもの」カクテルを注文し、一見でよく分からなかったブラッドは彼と同じものを頼んだ。カクテルはすぐに運ばれてきた。綺麗な緑のショートカクテルだった。二人は軽くグラスを当て、口に運ぶ。ブラッドは最初、少し警戒して唇を濡らしたが、さっぱりしていて飲みやすいと思った。だが調子に乗って一気にいくほど酒を知らないわけではない。ベースはウォッカだ。下手すると悪酔いする。つまりこれは、「上品」なカクテル。ブラッドはここが居酒屋ではないことを頭に叩き込む。しかし、変な緊張はなかった。周りの目を気にしなくていい、うまく入り組んだ店の造りが客を安心させるのだろう。いい店だ。ブラッドは素直にそう思った。
 そんなブラッドの様子を伺いながら、ロッカはカクテルを半分まで空け、落ち着いて声をかけた。
「お前」さっきより声が低い。「最近ランに贔屓されてるんだろ」
 店の雰囲気に合わせてボリュームを抑えているようだ。釣られて、ブラッドも小声になる。
「べ、別に、贔屓じゃない……よ」
 初対面の先輩にタメ口というのも抵抗があるが、ブラッドは必死で自然を装うとする。
「そうか? こないだも裏の奴らと仲良くテロ収集にいたらしいじゃないか。なんで素人がいるのか、知り合いに聞いたんだよ。そしたらランが勝手に放り込んだって言ってたぞ」
 素人……その言葉に引っかかるが、確かに自分は「殺し」は専門外だ。話は逸れるが、そのときのことを思い出すと腹が立つ。怪我もしたし、散々危険な目に合った。だが、ランには逆らえない。頼むからしばらく構わないでくれと、ブラッドは必死でお願いしたのだった。そうするとランは仕方なさそうに、無理をさせて本職の奴らの邪魔になっては問題だと間を空けてくれることになった。それを聞いて、彼に涙目で感謝してしまった。冷静になってみると、そんな筋合いはないし、どうして俺がこんなことをしなきゃいけないんだと、しばらく一人でふて腐れ、それでも文句も言えない自分を惨めに思うしかなかった。
「あんなのが贔屓なもんか」
 ブラッドは感情的になりながら、やっと肩の力を抜いた。
「ただの虐めだ。大体俺はあんな戦争紛いの仕事なんか頼んでないんだよ。ランに行けって言われて無理やり行かされてるだけなんだ」
「まあまあ」ロッカは機嫌が良くなる。「でもさ、金出してまで虐めるほど、あいつは暇じゃないと思うけどな」
「暇じゃないかもしれないけど」ブラッドは口を尖らせ。「大体、なんで俺なんだよ。結局三流だとしか思ってないくせに、他にデキる奴なんかゴロゴロしてるじゃねえか。専門外の仕事を押し付けておいて、文句ばっかり言われてたまるかってんだよ」
「そう言うな。裏の奴らは、確かにおっかないけどさ、気に入られておくといろいろと便利だぞ」
 ブラッドは、あんたも「裏の奴ら」の一人じゃないのかと思うが、そこは突っ込まないでおく。
「便利って?」
「面白いことを教えてくれるし、美味いものを奢ってくれるし、なかなか手に入らない武器や装備品を気前よく譲ってくれるときもある」
 そこでロッカは背を丸めて少し声を潜める。
「それに、『女』を紹介してくれる」
「えっ」ブラッドもロッカに顔を寄せ。「ほんと?」
「いい女の見分け方とか、口説き方とか……イカせ方とか。あいつらはそれくらいしか楽しみがないもんだから、やたら詳しいんだ。それに、強いし金も持ってるし、みんなとはいかないが、やっぱもてるんだよ。女は危険な男に惹かれる生き物だ。ちょっとコツを掴めばどんな女も操作できるんだとよ」
 ブラッドは興味津々で耳を傾ける。気分を落ち着かせるためにカクテルをぐっと飲み干した。
「じゃあ」目を細めて。「センパイもそうなんじゃないですか?」
 ブラッドはわざと敬語を使う。ロッカは体を起こして笑い出した。
「俺はないよ。見ての通り、ただの軟弱狐なんだから。確かに俺も裏に住み着いてはいるが、だからこそ慎ましく控えめに生きているんだ。なんたって、強者の巣窟だからな。いい男を山ほど見てりゃ、自分がどんなもんか嫌でも自覚するしかないんだよ」
 そう卑屈になられると、逆に嫌味に聞こえなくもなかった。人の噂話ばかりして、自分のことは語りたがらないタイプだなとブラッドは思った。しかし知ったような口を利くことはできない。そのまま話に乗る。
「あ、そうだ」ブラッドも縮めていた背を伸ばしながら。「ランはそんなことはないんだよな?」
「んー」
 ロッカは曖昧な返事を返す。
「あいつ。キツいことばっかで、面白い話なんか全然聞かせてくれないぞ。それに、あんな天使みたいなお姫さまを囲っておいて、何も知らないシェルに隠れて変なことしてるんじゃないだろうな。だったら許せねえ」
 ロッカは愚痴るブラッドを少し眺めて、肩を竦めた。
「お前って、よく分からないな」
 ロッカの一言でブラッドはさっきまでの勢いを消した。
「な、何が?」
「ランが裏だったことは知ってるようだけど、そういう細かいところまでは聞いてないんだ」
 ブラッドはしまった、と息を飲む。
「本人から聞いたわけじゃなさそうだな。あいつは昔の話はしたがらないし、裏の奴らは口が堅い。何か理由がない限り人の秘密をバラしたりはしない。ランと親しいのは間違いないんだろうけど……一体誰から、どんな状況で情報を得たんだか」
 ロッカは微笑んだまま、鋭い目でブラッドを見つめた。まずい。ブラッドは目を逸らせなかった。きっとロッカの方がランのことは詳しいはず。ルークスやカイルのことも知っているはずだが、それぞれの関係や事情をどこまで聞いているのかは分からない。下手なことは言えない。探られているのだろうか。それとも、何か聞き出そうとしているのか。ブラッドは緊張し、口を閉ざした。
 その重い雰囲気は、そう長くは続かなかった。ロッカはコロッと表情を変え。
「そんなに怖い顔するなよ」大きな口で笑う。「別に難しい話をしたくて誘ったんじゃない。お前がどんな奴か知りたかっただけだし、言いたくないことは無理に聞かねえよ」
 ブラッドはロッカの軽い笑顔に拍子抜けするが、まだ警戒は解かない。
「必要な情報はちゃんと金を払うって。いくら俺がいい加減でも、そのくらいのルールは守れるよ。せっかく美味い酒を飲んでるんだ。もっと楽しい話をしようぜ」
 ロッカは戸惑うブラッドに構わず、テーブルに肘を付いて顔を寄せる。
「まったく、お前の言うとおり、ランは酷い奴だ。俺をロードに登録させてくれないし、それどころか用がない限り出入り禁止になってるんだぜ」
 どうやら、ほんとに話題を変えてくれるようだ。ブラッドはやっと肩を落とした。
「なんで?」
「俺があいつの昔のことを知ってるからだよ」ロッカは眉を下げてため息をつく。「こうやってお前とかと世間話するのが嫌なんだ。あ、今日俺と飲んだことはランには言うなよ。久々に得意技の『三本折り』を食らわされるかもしれない」
「三本折り?」
「知らないのか? 最近はやってないんだな。あの野郎、自分に逆らえる奴がいないからって調子に乗りやがって、すぐ人の歯を折りたがってたんだよ」
 どういうことだろう。なんだか凄そうな話だ。
「歯を三本狙ってくるんだ」ロッカは自分の頬に拳を当てる。「二本でも四本でもダメ。確実に三本。失敗したらやり直し。だからいっそ逃げないでじっとしてた方がマシっていう、とんでもないゲームだ」
 ブラッドの顔が青ざめる。
「そ、それは」少し声が震えていた。「今も健在なんでしょうか」
「さあ。でも封印したとは聞いてない。俺も二回やられたんだ。お陰で二本は欠けてるし、四本は差し歯だ。同じ肉食のくせに、どれだけ惨いか分かってやってるんだから性質が悪い」
 いや、肉食じゃなくても歯は結構大事な部分だ。骨なら砕けない限り治ってくれるが、歯はそうはいかない。ブラッドの顔が引きつる。ランも凄いが、そんなことが日常で行われている裏の世界そのものが怖い。やっぱり、できることなら関わりたくない。もてなくていいから、平和に過ごしたいと、ブラッドは考え直した。
「まあ、でも、最近はすっかり落ち着いてるみたいだけどな」そう言うロッカは少しつまらなそうだった。「年とったのもあるんだろうが、やっぱデスナイトを辞めてからだな。まるで人が変わったみたいに大人しくなっちまった。五年前……なんかいろいろあったみたいだけどさ」
 ルークスのこと、古文書のこと、そして、エスのこと。ブラッドには分かる。それに、きっと他にも辛いことがあったんだろうと思う。人が変わって当たり前なほどのことが。逆に考えると、昔のランは今とはまったく違う人柄だったということなのだろう。
「……ってことは」ブラッドは急に顔を上げる。「やっぱり、相当遊んでたってことじゃねえか」
 ロッカはブラッドの勢いに圧されて目を丸くする。
「そうだとしても、なんでお前が怒るんだよ」
「だって、俺には何にもお零れくれないし……」ブラッドは頭を振って。「じゃなくて、シェルは俺の友達だ。彼女がどれだけ純粋で純情かよく知ってる。もしランが軽い気持ちで適当な扱いをしているんなら、歯の三本や四本覚悟でもぶん殴ってやらなきゃ気が済まねえよ」
 想像の時点で、既に殴り返されることを前提にしているブラッドが可笑しかったが、ロッカはスルーする。
「シェルって……」首を傾げ。「ああ、もしかして新しい入り嫁?」
「知らないのか?」
「会わせてくれないんだよ。店にいるらしいが、俺はここ数ヶ月、営業時間外しか顔出してないし。相当可愛いって噂は聞いてるけど」
「そうだよ。あり得ないくらい可愛いんだ」
「それはそうだろうな。あいつは昔から量より質にこだわるタイプだったから」ロッカはにこりと目を細めて。「ルークスとはまったく逆だったな。あの二人、面白いコンビだったよ」
 ブラッドの怒りがふっと消えた。ルークスの話を聞きたい。ここは黙って続きを待った。
「ルークスと言えば」ロッカは口の端を上げ。「あいつらのゲームはほんと、くだらないと言うか、呆れると言うか……」
「ゲーム?」
「俺たちは、何か思いついたらゲームとして楽しむんだ。どこからそんなもの思いつくんだっていうのばっかりで、俺は傍観してるほうが楽しいけどな。その中で、ランとルークスの張り合い方は、そりゃあ見ものだった。実力じゃランが圧倒的に上だったが、それは仕事の話だ。ルークスはランに懐いてはいたが、何とかランをヘコましてやろうといろんなゲームを持ち掛けていた。記憶力テストだとかサウナ我慢大会だとか」
 本当にくだらないな、とブラッドは思う。ルークスがそんなに幼稚だったとは。しかし、五年以上前の話であることは間違いない。まだランもルークスも若く、血気盛んな時期だったのだろう。それに、力や腕ではルークスでもランには適わない。その分野以外の勝負を挑むしかなかったのだろう。
 ロッカは昔を思い出し、堪えきれないように笑いを零した。
「特に、あれはエグかったな」
「なに、なに?」
 一人で楽しんでいるロッカに、ブラッドは縋るように催促する。
「バカなゲームだが、誰でもできるもんじゃない」ロッカはまだ少し焦らしながら。「『コレクション・ゲーム』。七年前くらいだったかな。結構話題になったんだ」
 コレクション。響きはいいが、どこか皮肉を感じる。嫌な予感がする。だけど、聞きたい。ブラッドの好奇心が高まった。
「ルークスが一番自信のあったこと……こればっかりは誰もが認めるしかなかったんだが」
 ブラッドは無意味に不愉快になった。眉を寄せて、先を読む。
「女だな」
「当たり」ロッカは口の端から牙を覗かせる。「つまり、簡単に言うとナンパ勝負だ。ただ数を稼げばいいわけじゃなかった。標的の容姿、環境、性格、その他いろいろな条件に基づいて点数が加算されるんだ。旦那や彼氏がいようが、嫁入り前だろうが、純情な乙女だろうがお構いなし。むしろ奴らにとっては点数の高い、都合のいいカモでしかない。まあ、そのぶん面倒だってのはあるけどな。後処理まできちんとやっておかないと、相手が追いかけてきたり裁判沙汰になんてなったら大変だ。下手すれば自殺を図られる危険だってある。短期間でそのすべてを計算しなきゃいけない、高度で下品なお遊びだ」
 確かに高度だが、そんな言葉で表していいことではないと思う。
「しかも点数の加算には、決定的な証拠の提示が必要だった」
 ますます嫌な予感がする。
「期限は三ヵ月。心を完全に奪って、体もいただく。証拠ってのは、女が本気で自分に惚れていることと、そして、乙女にこれだけ恥ずかしいカッコをさせて、はしたない悲鳴まで上げさせてやりましたっていうのが分かるものだ」
「な、な、なんだよそれ」
 なぜかブラッドは慌ててしまう。ロッカはニヤついたまま、冷静に続ける。
「写真、ビデオ、録音、相手が納得できるものなら手段は何でもよかった。もちろん、盗撮で。場合によっては貢がれた物品も立派な加算材料になった。当然、駆け引き中にゲームであることはバレてはいけない。演技だと意味がないからな。証拠品の中でも一番価値があったとされたのは、処女の……」
「待った!」ブラッドは堪らずに大声で遮る。「も、もういい」
 真っ青になって取り乱す彼が面白くて、ロッカは少し吹き出した。
「さ、最低じゃねえか。人の心を弄んで、他人に晒して、それをコレクションだとかゲームだとか。男として、いや、人として許せねえよ、そんなの」
「まあな。分かるけど、持ちかけたのは今は亡きルークスの方だし、もうずっと昔の話だ。頼むから俺から聞いたなんて、口が裂けても言わないでくれよ」
「い、言わないけど……」ブラッドは改めて小声になり。「で、結局それはどうなったんだ」
「詳しくは知らないけど、接戦だったらしい」
「……どっちが勝ったんだ?」
「んー、それがなあ……よく分からないまま終わってたんだよ。話によるとルークスの方から途中放棄したらしいんだが」
「…………?」




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