SHANTiROSE

CRIMSON SAMSARA-45





 空は空気の塊であり、物質ではない。
 時間や季節によって色を変えるために、まるで生きているような生命力を感じることもあるのだが、それはあくまで人間の感覚であり、実際は、空気中の微粒子にいろんな角度から光が当たることによって起こっている現象に過ぎない。
 つまり、何の隔たりもないそこに、ガラスに走るようなヒビが入ることは、物質的にありえないことだった。もしもあったとしたら、それは見た者の錯覚だと考えたほうが楽である。そもそもその現象を誰一人認識することがなければ「あった」ことさえ幻となる。
 しかし、その現象を複数の人が目撃してしまったら、見た人が指を指し、「空にヒビが入っている」と口に出し、聞いた人も確かに「空にヒビが入っている」と認めてしまったら、まず「あった」ことになる。
 それだけではまだ「錯覚」で片付けることができるかもしれない。
 ただし、その亀裂が消えることなく、更に大きくなっていった場合は別である。更に亀裂の奥から、何やら見たことのない物質が片鱗を覗かせてしまっては、錯覚などと言っている場合ではないだろう。
 ティオ・メイの上空、清々しいほど真っ青な空、流れる薄い雲の隙間にそれは現れた。
 音はしなかったが、空気が揺れたような不思議な感覚に襲われ、メイ周辺にいた人のほとんどが異常を察知して顔を上げていた。
 窓に何かが押し付けられるかのように、空に亀裂が走っていた。ヒビが僅かに湾曲し、パラ、と欠片が落ちたことにより、「向こう側」にあるものが動いていると判断できる。落ちた欠片は地上に着く前に大気中で消えてしまうため、本当にそこにガラスがあるわけではないようだ。やはり、空は空である。
 では、今空で何が起きているのか。誰も理解できる者はおらず、呆然とそれに目を奪われていた。
 欠片が落ちるにつれ、中のものが姿を見せる。
 隙間から覗いたものは、緩いカーブを帯びたものだった。表面は滑らかではなく、太い縄が絡み合っているような模様で覆われていた。
 ゆっくりとそれが空を裂いていく。止まることなく。裂け目から出てくるものは、地上にいる者の誰も見たことのないものだった。
 決して美しいと思える風貌ではない。絡み合ったものは縄ではなく、枯れた木の根。しかも裂け目を広げていくにつれ、それが異様なほど巨大であると、見ている者に認識させていく。
 人々の好奇心は、次第に恐怖へ変わっていった。
 巨大なそれは、バランスを崩して人間界へ落ちてきている呪樹の世界だった。
 外から見れば卵のような楕円の形をしたそれは、半分以上が人間界に侵入したところでグラリと傾いた。中の重さに耐えられずに浮遊制御不可になってしまったものである。今まで支配していたロアもサヴァラスも、今は無抵抗で「落ちる」のを待つしかできなかった。
 呪樹の世界は、とうとう縦に傾き、落下を始めた。
 落下地点はティオ・メイの城下町の外、荒野の真ん中に、それは影を落とした。
 幸い真下に馬車や通行人はいなかったものの、奇怪な現象への恐れが削がれることはない。
 蔦の塊と、影が接触する。同時に起こった地響きは、城下町を駆け抜けて城を大きく揺らした。
 人々の視界を遮るほどの砂埃の中で、呪樹の世界は数秒ほど沈黙していた。
 空はいつもの青いもので、そこにもうヒビはなかった。しかし、ヒビが入ったことは事実。地上に落ちた巨大な世界が証明だった。
 人々が息を潜めて見守る中、楕円の一番高い部分が動いた。まるで雛が孵るかのように、堅く絡み合った膨大な量の蔦がはらりと解けていき、重力に従って、地面を叩いた。その現象は、タマゴというよりも風呂敷包みを開く様子に似ていた。
 再度、大きな地響きがティオ・メイを襲う。そのとき城では既に、数多の兵士が臨戦態勢に入っていた。
 開いた卵型の空間は、淀んだ魔力を吐き出しながら人間界の地面に根を張った。例えるならば、大きな町ひとつ分ほどの「大木」が降ってきたようなものだろうか。
 呪樹の空間の中央に聳え立つ一本の核の木を中心に、中に詰まっていた仙樹果人が一斉に転がり出てきた。
 最初は、数え切れないほどの妙な形をした枯れ木が横倒しになっているだけだと、誰もが思った。しかし、それが各々に枝を動かし始めたことで、人々には「人の形をし、自ら動く化け物」に見え、その不気味さに背筋を凍らせた。
 あちこちで悲鳴が上がり、城下町は途端に騒然としていく。
 押し合いながら逃げ惑う人々を掻き分け、命令が下ったティオ・メイの兵士たちが呪樹に向かって出動した。
 その中の責任者であるサイネラやダラフィンらが町の人に、建物の中に避難するように声をかけていく。


 大量の兵士たちが呪樹の世界を取り囲んでいく様子を城の広場から見下ろすトールは、眉を寄せて神妙な顔をしていた。隣には魔法兵の衣装を身につけたライザも青ざめている。
「……あれは、ずっと私たちを不安にさせていた『影』」
 やはり「影」は恐ろしいものだった。しかも、それだけではないと、二人は不安の色に染まっている。
 まだ確かめてはいないのだが、なぜかあの場にルミオルがいるような気がしていたからだった。
 ライザも現場へ向かおうとしたとき、背後からマルシオが駆けてきた。
「トール、あれは一体……!」
 マルシオは兵ではない。トールが城にいるようにと言おうとしたが、マルシオは血相を変えて人の話を聞いていられる状態ではなかった。
「ティシラも、フーシャもいないんだ。まさか、あの変なものに巻き込まれているんじゃないだろうか……探してくる!」
「マルシオ、待ちなさ……」
 止める間もなく、マルシオは走り出した。
 その背中を見送りながらライザが後を追おうとしたが、トールが肩を掴んだ。
「ラストルは?」
 その名を聞き、ライザははっと息を吸った。
「もしもあの中にルミオルがいるとしたら……ラストルはここに止めておかなければ。君もここにいて、しばらく様子を見よう」
 ライザは最悪の結果を想像してしまい、僅かに震え出した。だが今は竦んでいる場合ではない。
 ある一つの希望を抱いて、気を強く持った。


 強い衝撃に見舞われ、積み重なる仙樹果人の隙間で倒れていたティシラが這い出てきた。
「……もう、なんなのよ!」
 少し離れたところから、サヴァラスも顔を出す。
「ティ、ティシラ様、無事でしょうか」
「サヴァラス、なんなの? 何が起こったの」
 サヴァラスは動かない仙樹果人を踏みながらティシラの手を引く。
「呪樹の世界が重さに耐えられずに、人間界に落ちてしまったようです」
「え? 人間界に? ってことは、ここは……」
 体を起こしながらティシラは周囲を見回す。確かに、世界が開けており、空や地平線が見える。しかしまだ彼女に危機感はなかった。
「重さに耐えられなかったって、なんて軟弱なのよ。大体そういうことは先に言いなさいよね」
 言う暇も与えなかったくせに、という文句をサヴァラスはぐっと我慢する。苦い表情を浮かべるサヴァラスを他所に、ティシラは改めて状況を考えた。
「あ! そうだ、フーシャは?」
 もし彼女が大怪我でもしたら後が面倒である。ティシラが彼女を探そうとしたとき、足元の仙樹果人が動いた。小さな悲鳴を上げて体勢を崩すと、サヴァラスが慌てて腕を掴む。
「仙樹果人たちが徐々に動き出します。気をつけてください」
「徐々に?」
「神経に魔力が行き届くまで少々時間がかかっているようです。落ちた衝撃でダメージを受けているものや、下敷きになって身動きが取れないものもいますが」
 話している間にも、サヴァラスの言うとおり徐々に仙樹果人たちが起き上がり始めていた。とりあえず地面に足をつけたほうがよさそうだと、ティシラは移動した。


 ルミオルとロアも、かろうじて大きな怪我は免れていた。
 だがそのことをルミオルは幸いとはしていなかった。気力を失い、虚ろな目で世界を見つめていた。視界の先には、メイの兵たちが遠巻きに自分たちを取り囲んでいる様子があった。
 ティシラの言うとおりだと、思う。なんてマヌケな最期だろう。たった一人の少女に簡単にすべて横取りされ、ろくな抵抗もできないまま殺されてしまう。ルミオルはそう考えて絶望していた。
 ロアは違った。ルミオルを救う方法は必ずある。死ぬことだけが栄光ではない。むしろ、この予定外の展開はルミオルを死なせずに済む方向へ向かうことができるのかもしれない。
「ルミオル様、逃げましょう」
 意外な言葉に、ルミオルは瞳を揺らした。
「逃げる?」
「はい。今回のことは失敗に終わったと、諦めるのです。あなたはまだ何も罪を犯してはいない。追われる理由はありません」
 ぼんやりとする中、ルミオルはロアの本心が見えた気がした。どこかで、そうではないかと感じていたことはあったのだが、ここではっきりと確信した。
 ロアは、自分を死なせまいとしている。
 なぜ? ロアはルミオルの目的も、それに至った理由も心情を理解したうえで協力していているものと思っていた。なのに、どうして今更逃げようなどと言い出すのだろう。もしもティシラの邪魔が入らずに、ルミオルの思い通りにことが進んでいたらどうするつもりだったのだろう。
「早く……!」
 ロアは無気力なルミオルを急かすが、彼は動かず、ゆっくりと向き合った。
「……俺は、逃げて生き延びるためにここまで来たんじゃない。自分のしたことの結末を見届けたい」


 フーシャは試作品の仙樹果人の手の中でしばらく気を失っていた。いくつかの仙樹果人の下敷きになっていたが、サヴァラスに彼女を傷つけないようにという命令を受けたそれに守られていた。
 被さるように倒れている仙樹果人の下ではっと目を覚ます。顔を上げると体中に激痛が走ったが、自分を捕えていた仙樹果人の指が緩んでおり、今のうちにと急いでそこから這い出た。
 そのまま重なり合う仙樹果人の隙間を塗ってよじ登り、顔を出す。周囲を見渡すと、閉鎖されていた空間が開放されており、その先が人間界であることに気づく。
 今なら逃げられる。マルシオにどう思われたとしても、ティシラの悪行を知らせなければと、痛む足に力を入れた。
 同時、足元の仙樹果人が起き出してきて、フーシャは悲鳴を上げて腰を強く打つ。
 その声を聞いたティシラが彼女の姿を見つけた。
「あ、いた!」
 ティシラに指を指され、フーシャは息を上げた。這うようにして背を向けて走り出す。
 慌てるフーシャに反し、ティシラは安堵していた。走る元気があるなら大丈夫そうだと判断し、逃げる彼女を追うつもりはなかった。
 しかし、ティシラの意図を知らないサヴァラスが咄嗟に大声を上げる。
「捕えろ!」
 フーシャの近くにいた仙樹果人が命令を受け、彼女を追い始めた。
「ちょっと、サヴァラス!」それを見ていたティシラが慌てて。「もう捕まえなくていいの。また発狂されたら厄介でしょ。止めて」
 言い終わらないうちにティシラは走り出していた。
 命令を受けた仙樹果人が三つほど、フーシャを捕まえようと手を出した。恐怖に慄いたフーシャは、悲鳴を上げながら咄嗟に白い光を放った。邪悪なものを跳ね返す、護身程度の光だった。
 それは、仙樹果人にとっては生まれて初めて受けた攻撃であり、理性のない彼らはフーシャを敵と認識してしまう。
 戦うためだけに生まれてきた仙樹果人の闘志が上がっていく。その気配を感じ取り、フーシャと、駆け寄ってきていたティシラ、彼女を追うサヴァラスが同時に青ざめた。
 フーシャは化け物から発せられた殺気に背筋を凍らせ、涙を堪えて走り出した。その間に、仙樹果人は自分の頭部にあった枝の一つを掴み、引きちぎる。その一本の枝は、人にとっては鋭い刃物同然だった。仙樹果人は逃げるフーシャに狙いを定める。恐怖で足がもつれたフーシャは、その場で転び、もう立てなかった。
「ダメ、やめなさい!」
 ティシラが大声を上げた。サヴァラスも反射的に「止めろ」と叫んだが、間に合わなかった。

 フーシャの目の前が真っ赤に染まった。生ぬるい血が顔に、体に、降り注ぐ。
 痛みはなかった。当然である。
 被った血は、フーシャを庇って代わりに傷を受けたティシラのものだったのだから。
 強靭な腕から放たれた尖った枝は、ティシラの腹部を貫通していた。赤く染まった枝の先端はフーシャに届く寸前で止まる。
 フーシャは今までに血の一滴さえも目にしたことがなかった。そんな彼女の目の前に、太く鋭利な棘に串刺しにされた、惨い姿のティシラがあった。瞬きしている間にも、ボタボタと音が聞こえそうなほどの真っ赤な血が自分に浴びせられていた。
 なぜ敵であるはずの自分を庇ったのか、その理由を考えていられる状態ではない。あまりの衝撃的な出来事に、気を失って倒れてしまった。

「……ティシラ様!」
 サヴァラスは震え上がった。よりにもよってとはこのとだ。自分の作り出した魔物が、姫を傷つけてしまうなんて。もしこのことがブランケルに知れたら、殺されるだけでは済まされない。長い時間をかけて残虐に苦しめられ、一族もろとも滅ぼされる。
 血まみれになって膝をつくティシラに、サヴァラスは駆け寄った。
 ティシラは腹部に刺さった枝を掴んで血を吐く。
「……ああ、もう」苦痛に耐えながら、眉を寄せる。「このバカ女……どうしてじっとしてられないのよ」
 サヴァラスも倒れてしまいそうだった。大丈夫ですかという言葉をかけるのも気が引ける。
 ティシラはぐっと腕に力を入れて枝を引き抜く。傷口から更に血が溢れ出した。
 気が触れてしまいそうなほど混乱しているサヴァラスに、ティシラは呟いた。
「……致命傷じゃないから、大丈夫」
 それを聞いてサヴァラスは少し落ち着いたが、怪我をさせたことは事実。この償いをしなければと頭の中を整理していると、ティシラが続けた。
「この女をどこか、安全な場所に……」
 人の心配をしている余裕はないはず。なのに、どうして彼女はフーシャを守ろうとしているのか、サヴァラスには理解できなかった。
「……そ、それよりも、あなたの怪我を」
「いいから。フーシャは仮にも天使よ。魔族の手によって傷をつけてしまったら、取り返しのつかないことになるかもしれない。私たちから関わっては、いけない」
 今まで適度な距離を守っていたからこそ、天界と魔界は均衡を保って地上を存続させてきた。彼女はそういった自然界の法則を理解しているからこそ、フーシャを守ったのだった。
 サヴァラスは、やはりティシラはただの我がままな少女ではなく、偉大なる魔王の血が流れた特別な存在だということを思い知った。


 その光景を見ていたロアとルミオルも蒼白していた。
 ルミオルが駆け出そうとしたが、ロアが腕を引いてそれを止める。
「ティシラは大丈夫です。今は、逃げるのです」
「離せ!」
 そのとき、呪樹の世界を囲む兵の一部が騒いだ。
 目を凝らしてみると、乱れる列の中に一人、異色の少年、マルシオが紛れ込んでいた。
 兵を振りほどいて掻き分けるマルシオに、サイネラが駆け寄ってきた。
「危険だ、城に戻りなさい」
「中にティシラとフーシャがいるかもしれない。行かせてください」
「彼女たちが?」
 サイネラが一瞬戸惑った隙に、マルシオは空中に飛び上がって強引に制止を振り切った。
 これで、マルシオを守るという突撃の口実ができた。サイネラはダラフィンに合図を送り、それぞれの兵に準備を開始させた。


「ティシラ!」
 呪樹の中に侵入してきたマルシオは、そこがどういう空間なのか、蠢く枯れ木の化け物が何者なのかを考える前に二人を探して走った。
 未だ積み重なったままの仙樹果人に登り、見渡す。
 マルシオの動きが止まる。そこに、探していたティシラとフーシャの姿があった。
 だが、決して安心できる光景ではなかった。
 血塗れでサヴァラスに肩を借りているティシラと、その足元に横たわる、赤く染まったフーシャ。
 それは、マルシオにとって予想もしていなかった、何よりも最悪な状況に映った。
 ティシラはマルシオに気づき、顔を上げた。なぜ彼が愕然と立ち尽くしているのか、すぐに理由を悟る。そして、汗を流した。
 今の状態だけを見れば、敵対していた二人が争い、血を流したようにしか思えないだろう。そして、ティシラがフーシャを傷つけたと、マルシにはそう見えているに違いない。
「……ティシラ?」マルシオの声は震えていた。「一体、何があった」
 やはり、彼は誤解しているようだ。フーシャが無傷であることを教えればすぐに解けることなのだが、ティシラは唇を噛んでそれをしなかった。
(……あんたは、昔からそうだった)
 魔族を悪と決め付ける。
 ティシラはそれが気に入らない。フーシャを庇ったことを恩に着せるつもりは一切ないが、魔族は悪というレッテルを張り、偏った目ですぐに疑いを持つ彼が腹立たしかった。
 人間界に慣れ始めてからは多少柔軟になり、ティシラという個人に対する情は確かにあった。しかし、彼はまだ心からティシラを信用しているわけではない。今のマルシオの態度が、ティシラを責めている。
「見れば分かるでしょう」
 ティシラは傷口を片手で隠しながら苦痛を堪え、マルシオを見据える。
「あんたの目に映ってる通りよ」
 マルシオは信じられないとでも言うように、何度も頭を横に振っていた。
「……嘘だろう? 何かの間違いだ」
「間違い?」ティシラは牙を見せて笑い、挑発する。「なにそれ。あんたは一体、私に何を期待しているのよ」
 様子がおかしいと、サヴァラスに不安が襲う。周囲の仙樹果人たちが目を覚まし始めていた。それに比例するように、魔法兵たちが結界と攻撃の呪文を唱えて魔力を上昇させている。いずれにしてもこのままではまずい。サヴァラスはティシラの顔色を伺いながら声をかける。
「あの、彼は、天使ですね……あれもティシラ様のお知り合いで?」
 ティシラはマルシオから目を離さずに、サヴァラスの問いに、小声で答えた。
「……友達よ」


 ティシラがフーシャを、魔族が天使を、傷つけた。

 マルシオの中で、その言葉が繰り返される。
 腹の底に、小さな蝋燭に炎が灯ったような感覚があった。それは次第に、熱を孕む。
 これは、恨み。
 憎しみ。
 マルシオは天使にあるまじき、醜悪な負の感情を抱いていた。
 正義でもなんでもない、裏切られたという個人的な悲しみから生まれた憎悪の念。それが、マルシオを侵食していく。

 ――殺してやる。

 何かがそう呟いた。自分の言葉なのか、誰かが囁いたのか、はっきりとは分からなかった。
 聖なる銀の色をした少年は、魔族よりも恐ろしい、凶悪な力を孕んだ。


   

Copyright RoicoeuR. All rights reserved.