凛 次の日の早朝、まだ空が白んでいるうちに暗簾は祠を訪れた。手にはまた何かを詰め込んできた風呂敷包みを提げている。 ここの戸締りといえば、内側から棒で戸を押さえる程度のものだが、彼が手をかけると難なく横に口を開く。相変わらず無防備だなと思いながら中を覗くと、件の女性が一人、座布団の上にぽつんと正座をしていた。 まだ寝ているだろうと思っていた暗簾は中に上がりながら女性に声をかける。 「起きてたのか」 女性は暗簾に向き直り、膝を折ったまま座布団から降りて深く頭を下げた。 「……お早うございます。昨日は、どうもありがとうございました」 女性に近寄りながら、何か礼を言われるようなことをしただろうかと考えてしまった。 ああ、そうだと、着物を渡したことを思い出す。女性はそれを身につけており、確かに違和感なく、帯も腰紐もきちんと結われていた。才戯がそんなことをできるわけがないのだから、やはり女性は着付けができるようである。 「昨日よりも元気そうだな」 きっとあれから才戯といろんな話をしたのだろう。何よりも、人として裸でいるよりも衣服を身につけるだけでも気持ちが落ち着くものである。そして、今もここにいるということは、これから彼と一緒にいることも拒絶したわけではないのだと悟った。とりあえずとはいえ、自分の居場所が確保できたことで少しは心強くなったのだと思う。 女性が顔を上げると、薄く微笑んでいた。 「お蔭さまで……帯も、こんなに綺麗なものを……私には勿体ないですが」 「そうそう」彼女の言葉を遮って。「一着だけじゃ不便だろうから、もう一式持ってきた」 「えっ」 暗簾は風呂敷を女性に渡す。女性はすぐに受け取らなかったが、ぐいと押し付けられて腕の中に収めた。 突き返すなどできるわけがなく、膝に乗せて包みを開く。そこには、今女性が身につけているものとは違う色と柄の着物が出てきた。女性はそれを手に取って、申し訳なさそうに眉尻を下げつつ、こみ上げる嬉しさを隠せずに再び微笑んだ。 「……こんなに、よくしてもらって。なんと申し上げていいのか……」 「気にしなくていいって、昨日も言ったよな。あのバカは気が利かないから、最初くらい俺が手伝ってやらないと何もできないだろ。それと、女はいろいろと人に言いにくいこともあるらしいから……ほら」 「?」 暗簾は胸元から小さな袋を取り出して、女性の膝に投げる。着物の上に落ちると、ジャラと金の音がした。 「金だよ。他に必要なものは自分で揃えろ」 女性は慌てて頭を横に振る。 「そんな……いただけません」 「あっそ。じゃあ才戯に渡してもいいけど。でもさ、お前は下の世話まであいつに見させるつもりなのか?」 女性の顔が赤くなった。確かに自分は無一文である。働いて稼ぐにも、身元も名前も分からないままでは身動きが取れない。暗簾にそこまでしてもらう理由はないのだが、彼の言うことは間違っておらず、今は甘えるしかないと恥を捨てて肩を落とす。 「……ありがとうございます」 女性は両手をついて深く、額が床についてしまいそうなほど頭を下げた。しかし暗簾はそれに応えることなく続ける。 「あ、それと、着物と一緒に櫛や手鏡も入ってるから。気に入らなかったとしてもないよりはマシだろ」 女性は驚いて顔を上げ、改めて風呂敷を覗いた。衣服に紛れ、言われたとおりの小物が出てくる。濃い朱に小さな花が描かれたお揃いのそれらは、漆塗りの粋で上品な代物だった。気に入らないなんてとんでもないと、女性は嬉しそうに目を細めた。 「……本当に、ありがとうございます。感謝してもしきれません。このご恩は一生忘れません。いつか必ずお返しを……」 まだ遠慮がちな様子が伺える。記憶がないのだから仕方ないのだが、これ以上取り繕ったような感謝の言葉を羅列されても時間の無駄だ。女ものの着物や小物に興味のない暗簾は辺りを見回す。 「で、才戯は?」 「……え」 まるで人の話を聞いてない様子の彼に戸惑いながら、女性は笑みを消して俯いた。優しいのか乱暴なのか分かりにくいが、それも無理はなかった。素の暗簾は、ちょっかいを出してくるわりに、その言動にはほとんど理由がないという、掴みどころがないのが特徴なのだから。自分のことさえ分からない今の女性に、彼を理解することは容易いことではなかった。 「……まだ、戻られていません」 「戻ってない? 出かけたのか?」 「はい」 「こんな早くに?」 「……いえ、昨晩からです」 「?」暗簾は首を傾げる。「……えっと、夜中に?」 「いえ……戌一ツ(午後八時)を過ぎた頃だったと……」 戌一ツ――そんな時間に出かけて、まだ帰ってきてない? まさか、そんなはずはないと思いたかった。だが昨日の才戯は暗簾が見たことのない彼だった。やはり。まさか。そうなのか? 何から聞こうか考えてみるが、いきなり「昨日は一緒に寝ていないのか」など、さすがに不躾過ぎる。もしかすると用事があって出ていったのかもしれないし――暗簾は落ち着いて、順番に話を聞くことにした。 「なんで、出ていったんだ?」 女性の表情が暗くなる。まさか彼女が才戯を怒らせるようなことをしたのだろうか。 あまり細かいところまで説明してもらおうとは思ってないが、一連の事の流れは把握しておきたい。
昨日、暗簾がいなくなってから、才戯はしばらく遠い空を眺めて呆然としていた。まるで魂の抜けたような顔を、緩い風が撫でていく。 こんなことは初めてだった。女性と自分とどちらの方が混乱しているのか、いい勝負だと思う。 彼の一番の困惑の理由は、自分自身の気持ちにあった。暗簾の言うとおり、女性を迷子として然るべきところに引渡してしまえばそれで終わる。だけど、それをしない自分が理解できずにいたのだ。 ただ、彼女をこのまま他の誰か渡すことだけは、どうしても抵抗があった。だからと言って、これからずっと一緒にいたいのかというと、強く頷くけるわけでもなかった。今はただ、気になるという言葉が正確なのだと思うが、今までにこれほど他人が気になるということがなかった。だから戸惑っているのだった。 彼女が何者なのか、どうしてここに来たのか、その答えが出たとき、何が起こるのだろう。もしかすると、女性を保護したことを後悔するときが来るのかもしれない。 頭上を大きな鳥が駆け抜けていった。うたた寝から叩き起こされたかのように、才戯は我に返る。 ここでじっと呆けていてもどうしようもないのだと、数回頭を横に振る。 表情も言葉も少ないあの女性とは顔を合わせるだけでも緊張してしまうのだが、いつまでもこうしているわけにはいかない。ただでさえ暗簾に弱味を握られ、今後もひやかされながら付き合っていかなければいけない状況になってしまったのだ。ここで逃げ腰になってしまったら、今以上の耐え難い屈辱を味わうことになる。 重い腰を上げ、体を強張らせながら、女性のいる祠へ足を運んだ。 まるで泥棒かのように、才戯は祠の戸の隙間から中を覗いた。 女性は女ものの着物を身に纏い、正座でぼんやりとしていた。着替えは終わったようである。呼吸を整えながら、才戯は中へ入った。 彼の姿を見ても、女性はすぐには動かなかった。まるで人形のようである。どうしてすぐに反応しないのか、もしかして体調が優れないのではないだろうかと思いながら、才戯は彼女の近くに腰を下ろす。 女性の傍らに、借りていた着物がきれいに畳んであった。着付けだけではなく片付け方も正しく、そういった知識は持っているようである。 「おい」 声をかけると、やっと女性は瞬きをした。 「大丈夫なのか」 大雑把な質問に、女性は返事をしない。何が大丈夫なのか、よく分からなかったのだった。 答えないならもういいと、才戯は次の質問に移る、移ろうとした。そうする前に、女性が改まって頭を下げてきた。 「……あなた様のご配慮には、大変感謝しています」 「?」 「私に何があってこんなことになったのか、自分でも思い出せないというのに、こうして休む場所と身につけるものまで与えてくださって……助けてくださったのがあなた様でなければ、私は一体どうなっていたことでしょう」 まさかこんなに感謝されるとは――決してそれだけではないのだが、下心を否めない彼は、気まずくなって汗を流す。 才戯は元々、善人の部類ではない。たまたまいろんな理由が重なって今に至るだけなのに、こう大袈裟に感謝されてしまっては後に引けなくなるではないか。まさかこれも計算なのだろうか。そうじゃなかったとしても、これは性質が悪い。とんでもないものを拾ってしまったと、つくづく思う。 「……いや、あのな」しかし、わざわざ怖がらせる必要はない。「は、裸でいられたら困るのは俺だし。お前は知り合いに似てるって言っただろう? だから放っとけないわけで……」 それを聞いて顔をあげた女性は、悲しそうな表情を浮かべていた。 「……そうですよね。ですが、私は感謝しているのです。もう感謝してもしきれないほどです。着物をくださったご友人の方にも、お礼を申し上げさせていだけませんでしょうか……」 俯いてしまった女性の様子に、才戯はもう一つ汗を流す。「ありがとう」と言われたなら、素直に「どういたしまして」とでも返しておけばよかったのかもしれない。 「あ、ああ。あいつはもう帰った。また明日来るらしいけど」 「左様でございますか……では、明日にでもお礼を……」 語尾を濁す女性に、更に気まずくなった。礼を「言う」のと「伝えて欲しい」のではだいぶ意味が違う。 もうこの話はやめ、どんな不自然さも無視して次の話題に切り替える。 「お前は――」 言いかけて、才戯は何か違和感を抱いた。 名前だ。呼び名がないと、どうも会話しにくい。樹燐はたまにしか会わないし、勝手に騒いで勝手に消えてしまうから、呼ぶ必要があまりなかったのだが、この女性とは数日間は一緒にいることになるかもしれない。 なんでもいいから呼び名を決めてもらおうと思う。が、待てよと一人で問答を始める。 彼女がここに居たがるかどうかを先にはっきりさせるべきだと思う。すぐにでも女性が何かを思い出したり、身内が現れる可能性もある。もしくは、ここには居たくないと言われれば、どこかへ連れていくしか方法はない。そうなったら、わざわざ仮の名を決めても無駄になるだけだ。 「……えーと」口籠りながら。「明日、宿替えすることになった」 女性は僅かに驚いたような表情を見せた後、瞳に影を落とす。そんな忙しい時期に、自分のような者が現れたのだ。やはり己の存在が迷惑をかけていると感じてしまったのだった。才戯には彼女の細かい心理までは読めない。話を続ける。 「お前は、どうする?」 「……え?」 女性は、予想外な問いに顔を上げた。 「えーと、お前の身元を探す手伝いは、してもいい。お前に似ている女がいると言ったよな。もしかしたら、そいつと関係あるかもしれないし、なかったとしても、まあ、できるところまでは、協力、しようと思えばできるから」 これでいいのか、自信のない才戯は目線が定まらないままだった。 あやふやな彼の言葉を聞きながら、女性は内側に小さな期待を抱いた。どこの誰だかも分からない自分に協力しようとしてくれるだけで有難いことである。きっと自分がここにいるだけで負担をかけているはず。しかし身元が分かれば、気持ちだけではなく、きちんとした形でお礼ができるのだ。宿替えの話が、見捨てられるという意味ではないのではと思い、女性は胸に手を当てて身を乗り出した。 「……あの」恐る恐る、確認するように。「もしかして、もう少し、ここに居てもいいということでしょうか」 女性からそういうことを言ってくるとは思っていなかった才戯は、泳いでいた目線を止める。 「……そ、それはいいけど」 「本当ですか? では、宿替えというのは……」 女性が言葉を濁していると、才戯は彼女の疑問を悟った。 「それは……」再び目線を逸らして。「別に、俺一人だし。まだどういうところか見てないが、ここよりはいいらしいから、それでいいなら、居ればいい」 女性は考えてもいなかったことに、驚きですぐには返事ができなかった。才戯としては、突然そんなことを言われても困るだろうとしか思えず、まだ他の話をして打ち解けた後にすればよかったと後悔していた。 だが女性は薄く微笑んで、再度頭を下げた。 「……ありがとうございます。このご恩は、いつか必ずお返しいたします」 女性は喜んでいる。どうやら、話の運び方は間違ってなかったようだと、才戯は胸を撫で下ろした。 安心感を抱いたところで、もしこれで、女性が樹燐本人であり、ある日突然元の彼女に戻ってしまったらと、才戯はそんなことを想像して青ざめた。そうなったら、きっと樹燐の思う壺に嵌って後戻りはできないのだろう。 だがそんな予想をしても、予防線を張ることなど無理だと思う。どうしても演技をしているようには見えないし、これで自分が心を奪われることになったら、そのときは腹を括って負けを認めるしかない。 不吉な未来を予感しつつ、ふう、と才戯は深い息を吐く。 女性は、疲れたようなため息の理由を悪く受け取り、唇を一文字に結んだ。まるで涙を堪えているような小さな表情に気づき、才戯は慌てて、だが言葉が見つからずに口をパクパクさせてしまう。 「……ああ、その、今のは」 何を必死に言い訳しようとしているのだと自分の不甲斐なさで、自分が泣きたくなった。こんな状態では話がなかなか進まないと感じながら、話しにくさの理由の一つを思い出す。 「そうだ、名前だよ」 「え?」 「お前、自分の名も覚えてないんだろうが、なんとなく、何かに因んでいたとか、そういうのはないのか?」 話を摩り替えられた感は残るが、女性は聞かれたことを素直に考えてみた。 彼女は何かを思い出そうとすると、突然闇に押し迫られるような感覚に襲われる。生まれたての赤ん坊ではないのだから、確実に何かの記憶はあるはずなのだ。なのに、女性にはその欠片の気配さえない。だから真っ暗な映像しかないのは仕方ないのだが、まるで黒い塊に圧し掛かられているようで苦しくなる。 目を閉じて眉を顰めながら、女性は呟いた。 「……分かりません」 もうその台詞は聞き飽きた。聞いた自分がバカだったと、才戯は彼女の顔の前で拍手を打つ。女性は肩を揺らして目を見開いた。 「ああ、もういい。じゃあ思いつきでいいから、自分の呼び名を決めろ。とりあえずだから、好きなものにすればいい。思い出すまでの間に合わせだ。深く考えるな」 「はあ……」 何でもいいと言われても、すぐには思いつかない。自分のを考える前に、そういえば肝心なことを聞いていなかったと、女性は珍しく早く口を開いた。 「あ、あの。あなたは?」 「は?」 「あなたのお名前です。申し訳ありません、まだお伺いしておりませんでした」 そうだった。だが才戯という名は堅気らしからぬもので、名乗りやすいものではなかった。人間の頃の「赤坐」も似たようなものだし、一緒にいれば正体もいずれはバレるだろう。別に隠す必要はない。 「……才戯だ」 女性は目を大きく開いた。やはり、珍しい名だと思ったのだろう。女性はその「言葉」を耳に刻み、一つ近づけたような気がして、笑みを咲かせた。 「……才戯様、と仰るのですね」 そう女性に噛み締めるように呟かれ、才戯は反応に困る。 「……様とか言うのは、やめろよ」 「でも、あなたは私の恩人です。敬意をこめて、そう呼ばせて……」 「うるさいな。気持ち悪いから、やめてくれ。ああそれと、その堅苦しい喋り方もやめろ」 そこまで言われては押し通すことはできないが、いきなりは無理だった。今度は女性の方が困り、口を噤む。 気持ちは分かるが、それにしてもだ。誰に対しても偉そうで威張り腐っていた樹燐とどこまで正反対なんだと、呆れさえ込み上げてくる。彼女がまったく別の外見をしているのなら素直に可愛いと思えそうだが、今の段階ではまだ警戒心が解けない。 「ああ、そうだ」また話が逸れてしまった。「俺のことはいいから、お前だよ」 「そ、そうでした……」 女性も思考を戻し、どこかで聞いたことのあるような、当たり障りのない名前はないだろうかと考えた。だがすぐに、自分に記憶がないことを思い出す。 そんな彼女が思いつく名と言えば、才戯からきいたあれしかない。 「……あの」言いにくいような様子で。「よろしかったら……才戯様が、決めていだけませんでしょうか」 言葉使いは簡単には直らないし、既にそのことを忘れてしまっている女性は、少し頬を染めながら続けた。 「……甘えてばかりで申し訳ないのですが、私は自分のことだけではなく周囲や知人の記憶もなくて、何も思いつかないのです。簡単なものでも構いませんので、あなたが呼びやすいものを、いただけないでしょうか」 女性の言い分も分かるが、才戯もまた人間歴が短く、暗簾のように人付き合いもしていない。彼が知っている名前と言えば、魔界、もしくは天上界のものしかなかった。一応、自分の知っている女性の名を思い出してみるが、なんとなく、そのどれも借りようという気になれるものはなかった。 (……あー、そういや赤坐のときの記憶を辿れば何か……いや、でもあいつも碌な女と関わってないしな。盗人の関係者だとか、女郎とか。そういう縁起が悪いのは避けておきたい) 盗人の関係者といえば、茉だ。そういえば彼女はどうしているのだろう。本当に諦めたのだろうのか。今まで忘れていたが、もし恨みを抱えてこちらの様子を伺っているとしたら、危険なのはこの女性である。やはり好きな女がいたのではないかとでも言い出しそうだが、解釈はどうしてもらっても構わない。それで自分のことなど忘れてくれるなら幸いなことだ。 すっかり思考が脱線してしまっていた才戯は、女性がじっと自分を見つめて返事を待っている様子を視界に捉え、はっと現実に引き戻された。 あんな歯牙にもかからない女のことなど心配している余裕はない。 うーんと唸り声を漏らしてみるが、元々才戯はものを考えるのが苦手だった。何でもいいと言ったのは自分である。そうだ、何でもいい。 考えるのをやめたとき、ふっとある言葉が頭を過ぎった。 「そうだ……あれでいいだろう」 「なんでしょう」 「りん」 才戯がよく分からないままに呟き、女性が勝手に勘違いした名前だった。 「……でも、それはあなたのお知り合いの方の……」 「うん、まあ」はっきりは覚えてないし、とは言えない。「別にいいんじゃないのか」 「でも、その方に失礼では……」 「何が失礼なんだよ。同じ名前の奴なんかこの世にいくらでもいるだろ。気に入らないなら自分で決めろ」 「いえっ」女性は慌てて大きく頭を横に振る。「気に入らないなんて、とんでもございません。とても素敵な名だと思います」 「あ、そ。じゃあ決まりだな」 「は、はい。ありがとうございます。では、私のことは『りん』とお呼びください」 やっと一つが解決したと、才戯はまた息を吐く。直後に、また女性・りんが悪く受け取ってないかと顔色を伺ったが、彼女は俯いて微笑んでいた。まるで、愛しい何かを抱いているかのように。悪いものではないのだが、才戯にはその気持ちが理解できない。きっと尋ねて説明してもらったとしても、分からないものは分からないだろうと思い、何も言わなかった。 Copyright(c) RoicoeuR. 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